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 Agrobacteriumによる形質転換(Nicotiana) 

  はじめに

 トランスジェニック植物はクローニングされた遺伝子の機能発現の解析や植物の育種へ応用に大きく貢献している。植物の遺伝子導入方法にはアグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法などがある。特に双子葉植物にはアグロバクテリウム法が多く用いられている。
 タバコへの遺伝子導入には、リーフディスク法が多く用いられている。この方法は、操作が容易で、かつ、1枚の葉切片からいくつかの独立した形質転換体を得ることができる。ここでは選抜マーカーとしてカナマイシン及びハイグロマイシンを利用した遺伝子導入のプロトコールを紹介する。

  実験

  1. 前培養
    1. 無菌的に育てたタバコの葉を無菌シャーレの上に置く。この時、ホルモンフリーMS液体培地(pH5.8)を1ml程度、滅菌シャーレに加えておき、タバコの葉が痛まないようにする。
    2. メスで主脈と葉縁を取り除き、約1cm2角のリーフディスクを切り出す。
    3. 切り出したリーフディスクをNB培地へ10枚ずつ葉の向軸側を下にして置床する。
    4. 16時間日長のチャンバーで24時間pre-cultureする。

  2. 共存培養
    1. 共存培養を行う前日に、適当な抗生物質を加えたYEPあるいはYEB培地でアグロバクテリウムを28℃、24時間培養しておく。この培養液1mlをホルモンフリーMS培地(pH5.8)で10倍に希釈し、感染菌液とする。
    2. 感染菌液に前培養したリーフディスクを約2分間浸す。リーフディスクを浸している間、前培養に用いた培地の上に滅菌したろ紙をのせて共存培養培地とする。
    3. 滅菌したキムタオルでアグロバクテリウムを感染させたリーフディスクをよく拭き、余分な菌液を除去する。
    4. co-culture培地の上にリーフディスクを向軸面を下にしてのせる。
    5. このシャーレを暗黒下28℃で2日間培養する。

  3. 選抜
    1. リーフディスクを500mg/lのカルベニシリンと250mg/lのカナマイシンの入ったNB培地に埋め込む。
    2. リーフディスクからカルスが形成されてシュートができるまで3週間ごとに継代する。
    3. シュートは3週間から6週間後に得られる。

  4. 発根
    1. シュートが生長し、茎葉部の区別が明確になったら、茎から切り取り抗生物質を加えないホルモンフリーのMS培地に移す。この時、切り取ったシュートにカルスがついていないように気をつける。
    2. 約3週間後、切り取ったシュートからは茎の切り取った断面より根が生じる。このシュートは根の周辺の寒天を水の中で落とし、ポットに移植する。以降、これをP1温室で育てる。

  5. 検定
    1. シュートをホルモン培地に移して発根を促すと同時にこのシュートから葉を一部切り出してきて500mg/lのカルベニシリンおよび50mg/lのハイグロマイシンの入った検定培地に移植する。
    2. 約10日後に葉がカルス化しているものはハイグロマイシン耐性個体とみなし、褐変化してしまったものはハイグロマイシン感受性個体とみなす。

  6. 培地組成
    1. YEP培地
      Bacto peptone 5.0g
      Bacto yeast extract 5.0g
      NaCl 2.5g
      1M MgCl2 1.0ml
      500ml(pH7.2)

    2. YEB培地
      beef extract 5.0g
      polypepton 5.0g
      Bacto yeast extract 1.0g
      sucrose 5.0g
      MgSO4・7H2O 0.5g
      500ml(pH7.2)

    3. NB培地
      MS無機塩 ×1
      MSビタミン ×1
      シュクロース 30g
      NAA 0.1mg
      BAP 1.0mg
      PHYTAGAR 8.0g
      カルベニシリン 500mg
      カナマイシン 250mg
      1000ml(pH5.8)
      ※ 抗生物質は培地が手で触れることができる位に培地が冷めてから加える。
      ※ 培地は固まる前に滅 菌シャーレに分注する。


  7. 注意点
    1. 材料となるタバコは種子滅菌処理をし、無菌的に生育させたものを利用する。以降、発根したシュートをP1温室内でポットに移植するまではすべて無菌操作であるため、クリーンベンチ内で操作する。
    2. リーフディスクを切り出す際には、できるだけ葉が痛まないように手早く操作する。
    3. 選抜を行うためのNB培地にリーフディスクあるいはカルスを埋め込むときにはエスケープが生じないように、できるだけ深く埋め込む。

  8. 終わりに
    1. トランスジェニックタバコの作出でポイントとなるのは、1.リーフディスクを切り出すときの手際の良さ、2.共存培養時の温度、期間などの条件、3.選抜のためにリーフディスク、あるいはカルスを埋め込む際のその深さであると思われる。以上の三点がうまく操作できたかどうかによってトランスフォーメーションの効率、エスケープの数、培養の期間に影響がでてくる。
    2. 培養する際のこつとして、寒天培地をシャーレに分注し、寒天が完全に固まる直前に培養物を埋め込むと良い。このようにすることで培地と培養物の間に隙間が生じなくなる。また、検定する際の手間を省略したい場合や、カナマイシン耐性遺伝子のみを選抜マーカーとしてタバコに導入する場合、発根を促すMSホルモンフリー培地にカナマイシンを50mg/l程度加えておけば、エスケープした個体は培地中で発根せず、根が培地上を這うような状態になるため区別できる。

  9. 参考文献
    1. Horsch,R.B., J.Fry, N.L.Hoffman, D.Eichholtz, S.G.Rogers, and R.Fraley, (1985).A simple and general method for transferring genes in to plant. Science 227:1229〜1231
    2. 松本省吾・町田泰則 (1990) 植物形質転換法. 現代化学 6月:25〜29


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