はじめに
ジデオキシ法による塩基配列の解析では、1度に300bp程度までしか決定することが出来ません。そこで、プラスミド中のインサートDNAに対してデリーションを行い、いくつかの適当な長さの断片を得る必要があります。ここではKilo-Sequence用Deletion Kit (TaKaRa)を用いた方法を説明します。
まず初めに、プラスミド中のインサートDNAのプライマー側の末端からデリーションをかけたクローンを得るために、インサートDNAとプライマーのアニーリング部位の間を2つの制限酵素で切断します。この2つの制限酵素はインサートDNAの中にそのサイトがあってはいけません。また、デリーションで用いるExonuclease IIIは、3'突出末端は削らずに、平滑末端や5'突出末端において3'endを削り込んでいくため、2つの制限酵素のうちインサートDNA側のものは平滑末端あるいは5'突出末端を生じるものを選び、プライマー側のものは3'突出末端を生じるものを選んで切断します。
なお、ここで説明する方法は "クローニングとシークエンス・植物バイオテクノロジー実験マニュアル" にしたがったもので、Deletion Kit付属の説明書のプロトコールとは異なっています。Exonuclease IIIでデリーションをかけた後、一定時間おきにMB Nuclease Bufferに加えて反応を止めますが、Deletion Kit付属のプロトコールでは分取したサンプルを1つのチューブに加えていくのに対して、ここで説明するプロトコールでは時間ごとに別のチューブにとって、それ以降の操作はそれぞれのチューブに対して行います。この方法によると、時間が経つにつれてデリーションが進んでいくわけですから、目的の長さのデリーションクローンを探す際に、ある時間のところに見当を付けることによってより効率よく探しだすことが出来ます。
- プロトコール
- 塩基配列を決定したいDNAがサブクローニングされたプラスミド10μgを準備し、以下のものをエッペンドルフチューブで混ぜる。まず先にプライマー側の制限酵素で切断する。
10μg DNA + H2O |
176μl |
10× 制限酵素Buffer |
20μl |
制限酵素 (10units/μl) |
4μl |
|
200μl |
- 37℃で2時間保温して反応させる。
- 70℃で10分間温めて、酵素の活性を失わせる。
- 室温に戻した後、反応液のうち5μlを取って電気泳動を行い、完全に切断されていることを確認する。
- 反応液にPhenol/Chloroform 200μlを加えて、ボルテックスした後、室温、12000rpmで5分間遠心する。
- 水層を新しいエッペンドルフチューブに移し、3M NaOAc 20μlと100% EtOH 500μlを加え、ボルテックスしてよく混合する。
- -80℃で15分間放置する。
- 4℃、15000rpmで15分間遠心して、上清を注意深く除き、DNAのペレットを乾燥させる。
- DNAのペレットにH2O 176μl を加え、ボルテックスして完全に溶かす。
- DNA溶液に以下のものを加えて混ぜ、インサートDNA側の制限酵素で切断する。
DNA溶液 |
176μl |
10× 制限酵素Buffer |
20μl |
制限酵素 (10units/μl) |
4μl |
|
200μl |
- 37℃で2時間保温して反応させる。
- 反応液のうち5μlを取って電気泳動を行い、完全に切断されていることを確認する。
- 反応液にPhenol/Chloroform 200μlを加えて、ボルテックスした後、室温、12000rpmで5分間遠心する。
- 水層を新しいエッペンドルフチューブに移し、3M NaOAc 20μlと100% EtOH 500μlを加え、ボルテックスしてよく混合する。
- -80℃で15分間放置する。
- 4℃、15000rpmで15分間遠心して、上清を注意深く除き、DNAのペレットを乾燥させる。
- DNAのペレットにExo III Buffer 100μlを加え、ボルテックスして完全に溶かした後、3分間氷冷する。氷冷している間に、エッペンドルフチューブを10本用意し、MB Nuclease Buffer 20μlずつを分注して氷冷しておく。
- DNAをExo III Bufferに溶かしたエッペンドルフチューブにExonuclease III 1μlを加えて混ぜ、フラッシュする。
- エッペンドルフチューブのふたを開け、37℃の恒温槽で保温する。このときを0秒として、45秒おきに10μlずつ採取して、用意しておいたMB Nuclease Bufferに加えていく。以降の操作は、10本のエッペンドルフチューブそれぞれについて行う。
- 65℃で10分間温めた後、室温で5分間放置して冷ます。
- Mung Bean Nuclease 0.5μlを加えて混ぜ、フラッシュした後、37℃で60分間反応させる。
- TE 70μlを加えた後、Phenol/Chloroform 100μlを加えて、ボルテックスし、室温、12000rpmで5分間遠心する。
- 水層を新しいエッペンドルフチューブに移し、Chloroform/Isoamyl alcohol 100μlを加えて、ボルテックスし、室温、12000rpmで5分間遠心する。
- 水層を新しいエッペンドルフチューブに移し、3M NaOAc 10μlと100% EtOH 260μl、さらにGlycogen (Boehringer Mannheim) 1μlを加え、ボルテックスしてよく混合する。
- -80℃で15分間放置する。
- 4℃、15000rpmで15分間遠心して、上清を注意深く除く。
- 70% EtOH 200μlを注いでリンスする。その後、4℃、15000rpmで5分間遠心して、上清をピペットマンで注意深く除く。
- DNAのペレットを乾燥させる。
- DNAのペレットにKlenow Buffer 5μlを加えて溶かす。
- Klenow Fragment (2Unit/μl)をKlenow Bufferで1/10希釈して、DNAをKlenow Bufferに溶かしたエッペンドルフチューブに1μl (0.2Unit)を加え、静かに混ぜた後、37℃で15分間反応させる。
- 3M NaOAc 0.6μlと100% EtOH 16μlを加え、ボルテックスしてよく混合する。
- -80℃で15分間放置する。
- 4℃、15000rpmで15分間遠心して、上清を注意深く除く。
- 70% EtOH 100μlを注いでリンスする。その後、4℃、15000rpmで5分間遠心して、上清をピペットマンで注意深く除く。
- DNAのペレットを乾燥させる。
- DNAのペレットにTE 2μlを加え、37℃で温めて溶かした後、フラッシュして氷の上に立てる。
- Ligation Solution A 16μlとLigation Solution B 2μlを加え、ボルテックスした後フラッシュする。
- 16℃で1晩反応させる。
- 5M NaCl 2μlと100% EtOH 66μlを加え、ボルテックスしてよく混合する。
- -80℃で15分間放置する。
- 4℃、15000rpmで15分間遠心して、上清を注意深く除く。
- 70% EtOH 100μlを注いでリンスする。その後、4℃、15000rpmで5分間遠心して、上清をピペットマンで注意深く除く。
- DNAのペレットを乾燥させる。
- DNAのペレットにH2O 17μl を加え、溶かす。
- インサート側の制限酵素で再度切断することによって、デリーションのかかっていないクローンがコロニーを形成しないようにする。44.のDNA溶液に以下のものを加えて混ぜる。
DNA溶液 |
176μl |
10× 制限酵素Buffer |
20μl |
制限酵素 (10units/μl) |
4μl |
|
200μl |
- 37℃で2時間保温して反応させる。この反応液を大腸菌にトランスフォームさせ、LB plate (+Amp.)で培養してコロニーを形成させる("トランスフォーメーション" の章を参照)。
ここで、LB plate上に様々の長さのデリーションクローンのコロニーが形成された状態になります。ここから任意にコロニーを選んで、プラスミドを単離し(ここでは rapid で行うと良いでしょう)、インサートを切り出す適当な制限酵素で切断した後に、アガロース電気泳動を行い、目的の長さのデリーションクローンを探し出します。または、適当なプライマーを用いてPCRを行うことによってインサート長の確認を行っても良いでしょう。200bpおきくらいの長さの異なるデリーションシリーズを準備し、それらのクローンについて高純度のプラスミドを単離し直し(Wizard Minipreps あるいは アルカリ法によって行います)、シークエンスを行うことにより、元のクローンの全長の塩基配列を決定することが出来ます。