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 GUS分析 

  はじめに

 近年、遺伝子操作の技術によって細胞に遺伝子を導入し、新たな形質を宿主細胞に付与することが頻繁に行われている。宿主細胞が植物細胞の場合の遺伝子導入法には、アグロバクテリウムを用いた間接導入法をはじめ、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、マイクロマニュピュレーション法などの直接導入法等がある。いずれの場合にも導入した遺伝子は、主にプラスミドに組み込まれた形で導入するが、重要なのは、いかにして遺伝子が導入された細胞(形質転換体)を選抜するかということである。
 形質転換体の選抜方法として最も簡単なものは、薬剤耐性による選抜である。用いられる薬剤としてカナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン、ハイグロマイシンなどの抗生物質や、除草剤であるビアラフォスなどがあるが、宿主細胞の種類によって使い分けられている。
 薬剤耐性以外の選抜方法としては、GUS遺伝子やルシフェラーゼ遺伝子をなどの翻訳産物が直接に呈色反応を触媒するような酵素である遺伝子などもマーカー遺伝子として用いられる。しかし、これらを用いる場合、薬剤耐性遺伝子を併用することが多い。このような呈色反応を触媒するような酵素である遺伝子は、その上流に連結するプロモーターによって発現組織を特定することができる。この特徴を利用しているのが、プロモーターの活性測定である。
 本章では、GUS遺伝子をマーカー遺伝子として用いた際のその発現を調べる方法について述べる。GUS遺伝子の発現測定法には、全組織を磨砕してサンプルとして用いる蛍光法と、組織切片を作成してサンプルに用いる組織化学的方法がある。前者はGUS遺伝子を遺伝子導入のマーカーとして用いる場合とプロモーターの活性を測定する場合に、後者は導入遺伝子の有無を、組織を破壊せずに調べる場合と、GUS遺伝子をプロモーターが機能する組織をを調べるためのレポーターとして用いる場合に多用される。以下、蛍光法、組織化学的方法と、順を追って述べてゆく。

  蛍光法によるGUS遺伝子の活性測定

 この方法は、先に述べたように、GUS遺伝子を遺伝子導入のマーカーとして用いる場合とプロモーターの活性を測定する場合によく用いられる方法である。特にプロモーターの活性測定の際は蛍光分光光度計を用いて、GUSの活性を定量するが、ここで紹介する蛍光分光光度計は、GUS活性を測定するための条件を最小限満たしており、しかも最も安価で購入できるフルオロリーダー(味の素:フナコシ)である(現在、製造停止?)。

  1. 試薬の調製

    1. 抽出緩衝液
      50mM リン酸緩衝液(pH7.0)
      10mM EDTA(pH8.0)
      0.1% Triton X-100
      0.1% Sarcosyl
      10mM 2-メルカプトエタノール
      20% メタノール

    2. 蛍光基質溶液(MUG)
      3.5mg 4-methyl-umberlliferyl-b-D-glucuronide/10ml 抽出緩衝液

    3. 反応停止液
      0.2M Na2CO3

    4. 蛍光標準液
      1mM 4-methyl-umbelliferone
      ※ 順次希釈を行い、100mM、10mM、1mM、100nM、10nM、1nMなどの標準溶液を作成する。

  2. 実験操作

    1. 適当量(0.5g以下:葯の場合1花分、葉の場合1cm四方程度)の組織をマイクロテストチューブに入れ、抽出緩衝液を100μl加えた後にペッスルで十分に磨砕する。
    2. 12000回転で5分間、4℃で遠心し、上清80μlを新しいマイクロテストチューブに入れる(a)。
    3. 同時に、上清1μlを別の新しいマイクロテストチューブに入れる(b)。
    4. また20mlの試験管に4mlの反応停止液を分注しておく。

      (a)について

      1. 更に170μlの抽出緩衝液を添加し、250μlとする。
      2. これに、250μlの蛍光基質溶液を加え、十分に撹拌する。
      3. 反応時間0分のサンプルとして、100μl分取し反応停止液が4ml入った試験管に入れ、十分に撹拌する。
      4. 残りの液を37℃のインキュベーターで保温し反応を進行させ、30分、60分で0分と同様の操作を行い、1サンプル当たり合計3つの反応液を得る。
      5. 各々の反応液について蛍光を測定する。

      (b)について

      1. 1mlの5倍希釈したブラッドフォードタンパク質定量液(BioRad)を加え、十分に混和する。
      2. 10分放置した後、595nmの吸光度を測定し、タンパク量を定量する。
      3. 得られたサンプルあたりのタンパク質量と蛍光度から、GUSの酵素活性を、4-MU pmole/min/mg proteinで表示する。

  3. 注意事項
    あくまでもカイネティックスの実験なので、分取する液量や反応時間は厳密に守る。
    また、反応に供するサンプル(a)については、インキュベート時以外は極力氷中に置く様にする。


  タンパク質量の測定

 用いるキットは、BioRad社のプロテインアッセイシステム(Cat.No.500-0001)である。このキットは、ブラッドフォード法によってサンプル中のタンパク質含量を測定するものであり、測定波長は595nmである。

  1. 試薬の調製

    1. タンパク質標準液
       1mg/ml Bovine Serum Albumin (BSA) Fraction V (水溶液)
       更にこの溶液を順次希釈して、各濃度段階の標準液を準備する

    2. ブラッドフォード試薬
       キット内の溶液(染色液)を蒸留水で5倍に希釈する

  2. 実験操作

    1. 分光光度計の電源を入れる。30分くらいで安定する。
    2. 作成した各濃度段階のタンパク質溶液を1μlずつエッペンドルフチューブに分取する。
    3. さらに、ブラッドフォード試薬を分注して10分以上放置する。
    4. それらの液の吸光度を、波長595nmで測定する。使用するセルは、1cmのプラスチック製の角セルで十分である。なお、測定の際の対照(ブランク)には、タンパク質標準溶液の代わりに水を加えたブラッドフォード液を用いる。
    5. 得られた吸光度とタンパク質濃度をプロットして検量線を作成する。検量線がプラトーになる前の一次直線の領域で濃度測定を行う。
    6. なお、実際のサンプルのタンパク質量の測定の際のreaction mixtureも、同様に作成する

  3. 注意事項
     先にも述べたように、検量線が一次直線を描いている範囲で濃度の測定を行うこと。また、用いる分光光度計の説明書をあらかじめよく読んでから用いること。


  蛍光分光光度計を用いた蛍光量の測定

 蛍光は、絶対量としては計れない。そのため毎回標準液を作成してそれを基準に測定する。ここでは、味の素のフルオロリードの操作説明をする。

  1. 試薬の調製
    1. 蛍光標準液
       1mM 4-methyl-umbelliferone 
       順次希釈を行い、100mM、10mM、1mM・・・などの溶液を作成する。

    2. 実験操作
      1. 蛍光分光光度計の電源を入れる。30分程度で安定となる。
      2. 試料槽の蓋を開け、励起光側と測定光側各々に適する波長のフィルターを入れる。GUSによる蛍光測定の場合は、励起光365nm、測定光455nmで行う。
      3. ブランク(ここでは反応停止液)をセルに入れ、FLUOR ZEROを押し、試料槽の蓋を閉め信号音がするまで待つ。
      4. 試料槽の蓋を開けブランク液と標準液を交換しFLUOR STDを押す。テンキーで濃度(値)を入力し、蓋を閉め信号音がするまで待つ。これで、標準が設定されたが、濃度の異なる標準液(例えば設定した標準液の1/10濃度)をセルに入れ、蓋を閉める。
      5. 信号音のあとに表示される値が入力した濃度(値)に対して正確(左記の例の場合1/10)であれば正しく設定されたことになる。
      6. ここで、プリンターをONにして、順次サンプルの測定を行う。

    3. 注意事項
       詳細についてはフルオロリードの取扱説明書を参照すること。

  組織化学的解析

 この方法は、既に述べたように、導入遺伝子の有無を、組織を破壊せずに調べる場合と、GUS遺伝子をプロモーターが機能する組織を調べるためのレポーターとして用いる場合に多く用いられている。複雑な操作を必要とせず、組織を基質溶液と共にインキュベートするものである。

    1. 試薬の調製

      1. 基質原液(X-Gluc)
         20mg X-Glucuronide (5-bromo-4chloro-3-indolyl-b-D-glucuronide)
         1mlのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解する。
      2. 基質溶液
         基質原液20mlを1mlの抽出緩衝液にとかす。

    2. 実験操作

      1. 組織をハンドセクションにより、切片にする。
      2. この際、メスや組織を抽出緩衝液につけ、組織の褐変化を防ぐようにする。
      3. 作成した切片を1mlの抽出緩衝液を入れたシャーレに移し組織全体を浸した後、抽出緩衝液を除き、等量の基質溶液と交換する。
      4. なお、カルスのような組織を観察する場合、ここまでの操作は省略できる。その際はシャーレの代わりにエッペンドルフチューブを用いると操作が簡単である。
      5. その後、37℃で保温し、時々発色の様子を見る。発色反応の停止には、70%エタノールを添加する。

    3. 注意事項
       組織化学的な方法で解析する場合、結果として残せるのは、発色時の写真である。十分に気を付けてきれいに撮影することが大切である。

  おわりに

 GUS活性の測定に関しての概要をここに述べたが、他にいくつかの方法が報告されている。それらに関しては成書を参照されたい。

  参考文献

    1. 内宮博文著 植物遺伝子操作マニュアル. 講談社サイエンティフィック. 1990.
    2. S.R.Gallagher eds. GUS Protocols. Academic Press. 1991.
    3. C.H.Shaw eds. Plant Molecular Biology. IRL Press. 1988.


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