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  はじめに

 cDNAを単離した遺伝子に関して、プロモーター領域の解析を行ったり、イントロン、エクソンの位置を決定するためにはゲノムのクローンを単離する必要がある。cDNAライブラリーを作製するの比べて、ゲノムライブラリーの場合、挿入するDNA断片が大きいために、高い効率のライブラリーを作製することが困難である。また、消化したゲノム断片をベクターに挿入した場合、インサート同士のタンデムなライゲーションにより、キメラのクローンがクローニングされることが大きな問題となる。それを回避するために、一般的には挿入するゲノム断片の大きさをいろいろな方法で分画(ショ糖密度勾配遠心など)することを行う。しかしながら、その操作はかなり煩雑である。そこで、本節では切断したゲノム断片とベクターとをそれぞれfill-in反応して、ゲノム断片同士のライゲーションやベクターのセルフライゲーションを防ぐ方法について概説する。fill-in反応とは、突出末端を形成するような制限酵素で切断した場合に、その突出末端の一部を基質として、いくつかのdNTPを加えて、klenow fragmentで突出末端を埋める反応のことを言う。たとえば、XhoIで消化したベクターに対してdTTP,dCTPを加えて、klenow fragmentを用いて、突出末端がCTのみとなる。また、Sau3AIについても、dGTP, dATPを基質としてklenow fragmentで反応させると、突出末端はベクターと相補的なGAとなり、相互にライゲーション可能な末端が形成される。このようにfill-inしたものはそれ同士では決してライゲーションしない。そのため、ライゲーションされるインサートは1 fragmentのみとなる。ただし、このときライゲーションされるインサートの大きさに制限はないので、0-23kbのものがライゲーションされるが、ファージにパッケジングされるときに、9-23kbのものがライゲーションされたときにのみパッケージング反応が起きる。この場合に用いるゲノム断片は、9-23kbの範囲に多くのDNAが含まれるものを用いるので、極端に大きかったり、小さいゲノム断片は取り込まれことはない。
 以上のような点で、ゲノム断片を分画するものよりも、簡便ではあるが、最終的な高率は多少低くなると考えられるが、大きな問題ではない。
 なお、ここで用いるλGEM11 XhoI half site armsを用いる方法では、ベクターの方はすでにfill-in反応が完了しているので、ゲノム断片のみをfill-in反応させればよい。

  1. 実験操作

    1. ゲノムDNAの精製(エタノール沈殿)

       CTAB法で単離したゲノムDNAをエタノール沈殿することによって精製を行う。 さらに高純度のDNAを必要とする場合には超遠心などを行う。

      1. 準備
        CTAB法によって単離したゲノムDNA、3M NaOAc(pH5.2)、100%エタノール、70%エタノール、パスツー ルピペット、低速遠心器、1xTE(10mM Tris-HCl(pH8.0), 1mM EDTA)、

      2. 実験方法
        1. ゲノムDNA溶液に0.1vol.の3M NaOAc(pH5.2)と2.5vol.の氷冷100%エタノールを加え、DNAの糸を紡ぐ。
        2. 先を曲げたパスツールピペットでDNAの糸を別の15mlチューブに移し、70 % エタノール 5mlを用いて2回洗い、風乾する。
        3. 1.の上清を室温で3000rpm,10分間遠心し、上清を除いた後、沈殿を70% エタノールを用いて洗い、風乾する。
        4. 2.と3.は、それぞれ1mlの1×TEに溶解して、4℃で保存する。基本的に 2.で得られたDNAの方をライブラリー作製に用いる。3.で得られたDNAは 予備とする。最終的に分光光度計による測定や電気泳動によってゲノム DNAの量を確かめておく。

    2. ゲノムDNAの部分消化

       完全なゲノムライブラリーを作製するためには、高分子ゲノムDNAをランダム に消化することが重要である。ゲノムDNAの部分消化には、制限酵素量を変化させる場合と反応時間を変える方法があるが、ここでは、Sau3AIを用いた制限酵素量を変化させる方法について概説する。

      1. 準備

        1. 10T-0.1E
          10mM Tris-HCl(pH8.0)
          0.1mM EDTA

        2. 10xH buffer
          500mM Tris-HCl(pH7.5)
          100mM MgCl2
          10mM Dithiothreitol
          1000mM NaCl

        3. 制限酵素(Sau 3AI)
        4. ピペットマン、チップ、エッペン、滅菌水、前項で精製したゲノムDNA、恒温器

      2. 実験方法

        1. ゲノムDNA(DNA10μg分)をエッペンに入れ、10xH bufferを15μl加え、滅菌水で全量150μlにする。
        2. 8本のエッペンを用意してI〜VIIIまで番号をふり、そこに1.で調製した 溶液を15μlずつ分注する。Iのチューブには、1.の溶液をもう15μl加え、全量30μlにしておく。
        3. Sau3AIを10T-0.1Eで希釈して1U/μlにする。
        4. Iのチューブに1U/μlに希釈したSau3AIを1μl加えてよく撹拌し、そこから 15μl取り、IIのチューブに加えてよく撹拌する。またそこから15μl取り、 IIIのチューブに加えてよく撹拌し、この操作をVIIのチューブまで繰り返 す。VIIのチューブから取った15μlは捨てる。以上の操作により、I(Sau3 AI 0.5U/μgDNA)〜VII(Sau3AI 0.008U/μgDNA)までの濃度シリーズのSau3A Iの含まれた1μgDNA入り溶液が15μlずつ作られる。VIIIの溶液は、Sau3AIの含まれていないコントロールである。
        5. I〜VIIIの8本のチューブは37℃で30分間反応させる。このとき、反応の開始は、全エッペン同時に行う。
        6. 反応終了後、直ちに70℃で15分間保温し、全エッペン同時に反応を停止す る。
        7. 反応物を電気泳動し、9〜23kbの断片が最も多く含まれているチューブの Sau3AIの濃度を最適濃度とする。なお、ここでの電気泳動に用いるアガロ ース濃度は、高分子DNAを分離するために0.3%とし、泳動時の電圧は20V程 度が好ましい。
        8. 7.によって求められたSau3AI最適濃度を用いて、必要量(11μg)のゲノム DNAを制限酵素処理する。この時も、37℃で30分間反応させ、その後直ち に70℃で15分間保温して反応を止める。
        9. 反応物のうちDNA1μg分を電気泳動し、部分消化が成功している事を確認す る。

    3. 部分消化したゲノムDNAの精製
       消化したDNA溶液中には酵素が残っている。この酵素は、次に行うライゲーシ ョン反応を阻害するので、除去する必要がある。

      1. 準備
        エッペン、チップ、ピペットマン、高速微量遠心器、

      2. 実験方法

        1. 部分消化したゲノムDNAの含まれた溶液にフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1)を1vol.加えて、おだやかに数分間反転する ことにより混合し、室温で12000rpm,5分間遠心する。上層を新しい1.5ml チューブに移す。
        2. 1.の操作をもう1度繰り返す。
        3. 2.にクロロホルム・イソアミルアルコール(24:1)を1vol.加える、おだや かに数分間反転することにより混合し、室温で12000rpm,5分間遠心する。 上層を新しい1.5mlチューブに移す。
        4. 3.に7.5M酢酸アンモニウムを0.5vol.加えた後、100%エタノールを2vol.加え、十分に混合し-20℃で30分間放置する。
        5. 4.を4℃で12000rpm,10分間遠心し、上清を取り除く。
        6. 70%エタノール 500μlを用いて、DNAとチューブの内壁を洗う。
        7. 6.の操作をもう1度繰り返し、その後風乾する。
        8. 風乾した後、DNAを40μlの滅菌水に溶解する。

    4. fill-in反応
       ここでは、λGEM11 XhoI half-site armsをベクターに用いる。このベクターはすでにfill-in反応が終わっているので、消化したゲノムDNAのみ、fill-in反応を行う。

      1. 準備

        1. fill-in 10x reaction buffer
          500 mM Tris-HCl(pH7.2)
          100 mM MgSO4
          1 mM DTT
          0.05% BSA
          10 mM dATP
          10 mM dGTP

        2. 10T-0.1E
          10mM Tris-HCl(pH8.0)
          0.1mM EDTA

        3. フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1)
        4. クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1)
        5. 7.5M酢酸アンモニウム
        6. 100%エタノール
        7. 70%エタノール
        8. Klenow fragment(2U/μl)、
        9. 器具類
          ピペットマン、エッペン、チップ、高速冷却遠心器

      2. 実験方法

        1. 40μlの滅菌水に溶解しているDNA(10μg)に、fill-in 10×reaction buffer 5μlとklenow fragment(2U/μl) 5μlを加え、37℃で30分間インキュベートする。
        2. 1.にフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1)を1 vol.加えて、おだやかに数分間反転することにより混合する。
        3. 室温で12000rpm,5分間遠心する。
        4. 上層を新しいエッペンに移す。
        5. 2.〜4.の操作をもう1度繰り返す。
        6. クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1)を1vol.加え、おだやかに数 分間反転することにより混合する。
        7. 室温で12000rpm, 5分間遠心する。
        8. 上層を新しいエッペンに移す。
        9. 7.5M酢酸アンモニウムを0.5vol.加えた後、100%エタノールを2vol.加え、十分に混合し-20℃で30分間放置する。
        10. 4℃で12000rpm,15分間遠心し、上清を取り除く。
        11. 70%エタノール 500μlを用いて、DNAとチューブと内壁を洗う。この操作をもう1度繰り返し、風乾する。
        12. 風乾したDNAを、最終的に1μg/μlになるように10T-0.1Eを加えて溶解する。

    5. ベクターへのライゲーション

       ライゲーションを行う場合、ベクターと挿入DNAの比が非常に重要になってく る。通常の場合、その比が、重量比で5:1から1:5程度の範囲でいくつかライゲ ーションを行い、さらにパッケージングしたファージをプレートにまいたとき に形成されるプラーク数が最大になるようにライゲーションの比率を調整する。

      1. 準備物

        1. 10x ligation buffer
          300mM Tris-HCl(pH7.8)
          100mM MgCl2
          100mM DTT
          10mM ATP

        2. λGEM-11 XhoI half-site arms(Promega)
        3. T4 DNA ligase(Promega)
        4. 前項で部分消化したDNA(挿入DNA)
        5. 滅菌水
        6. 器具類
           ピペットマン、チップ、エッペン

      2. 実験方法
        1. 10× ligation buffer、T4 DNA ligase(promega)、それぞれ全量の0.1vol.になるように加える。ベクターと挿入DNAは、先の説明のように量比を調製する。ここでは、1:2の例を以下のように示した。
          ベクター(1μg) 1.0μl
          挿入DNA 0.5μl
          10× ligation buffer 0.5μl
          T4 DNA ligase 0.5μl
          DDW 2.5μl
            5.0μl

        2. 4℃で一晩反応させる。

    6. その後・・・

       以上によって、ゲノムDNAがλDNAベクターにクローニングされる。この後 ファージにパッケージングすることによって、ゲノムライブラリーが完成 する。ただし、このパッケージングは、別項において記述してあるので、 そちらを参照していただきたい。さらに、ファージのプレーティングやス クリーニングの方法についても、cDNAライブラリーの項にあることを付記 しておく。

  2. パッケージング

    1. 計算

       ライブラリー完成後、プレーティングする際に、一部をamplifyして保存しておくことを薦める。なお、プレートは4℃で保存すれば約1年間保つと思われますが、抗生物質が入っていないため次第にカビが生えてくるので、プレーティング後は、なるべく早くスクリーニングを行う方がよい。
       なお、ゲノム全体をカバーするために必要なファージクローンの数は、次に示す式を用いて算出される。例えば、Brassica campestrisのゲノムライブラリーを作製する場合、ゲノムサイズを1.0×109bpとすると、必要なファージクローン数は2.9×105となる。

      N = ln(1-P) / ln(1-x/y)
         N:必要クローン数
         P:確率(99%で計算)
         x:挿入DNA断片長(9〜23kb 平均16kbで計算)
         y:ゲノムサイズ

      例)N = ln(1-P) / ln(1-x/y) = ln(1-0.99) / ln(1-16×103/1.0×109) = 2.9×105

    2. 参考文献
      1. Gelvin S.B., R.A. Schilperoort (1988). Plant molelcular biology manual. Kluwer Academic Publishers
      2. Murray M.G. and W.F.Thompson (1980). Rapid isolation of high mole- cular weight plant DNA. Nucl. Acids Res. 8 : 4321-4325
      3. Sambrook J., E.F. Fritsch and T. Maniatis (1989). Molecular Cloning Second Edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press.


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