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 抗体調製 

  はじめに

 1975年のKhlerとMilsteinによるハイブリドーマ法の報告は以下のようなものであった。彼らは、マウス(BALB/c)のミエローマ細胞とヒツジの赤血球で免疫した同系統のマウスの脾臓細胞とを、不活化したセンダイウイルスを用いて融合した。この融合した細胞をHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)培地を含んだ軟寒天中で選抜し、ヒツジ赤血球膜の特定な抗原決定基に対するモノクローナル抗体を産生する細胞を獲得することに成功した。さらに、その細胞は永続的に培養可能なものであった。ここに、ハイブリドーマ法が確立されたのであった。彼らはこのことで、ノーベル賞を授賞したのであった。

 ここで、この実験法によって何故永久に抗体を産生する細胞株が確立されるかについて概説しておく。細胞融合に用いるミエローマ細胞株はHGPRT(hypoxan-thine-guanine- phosphoribosyltransferase)酵素を欠損した9-アザグアニン耐性株である。選択培地中に加えるアミノプテリンは、ヌクレオチドの生合成において重要である葉酸のアナローグであり、de novo合成経路で葉酸リダクターゼを阻害し、プリンとピリミジンの生合成を阻害する。そのため、アミノプテリン存在下で細胞が生存するためには、ヒポキサンチンとチミジンを利用したサルベージ経路でヌクレオチドの生合成を行わなければならない。ここで用いるミエローマ細胞は、サルベージ経路に必要であるHGPRT酵素欠損であるために、HAT存在下では以上のような理由で生存できない。そのため、ミエローマ細胞と脾細胞の融合細胞は、脾細胞が持っているHGPRT酵素を利用してサルベージ経路でヌクレオチドの生合成が行えるので、HAT存在下でも生育できる。

 この報告以来、現在に至るまで非常に多くのモノクローナル抗体が作製されてきている。基本的には彼らの方法とは変わらないのであるが、用いた培地(DMEMまたはRPMI1640)、融合法(センダイウイルス、PEG、電気融合)、クローニング法(軟寒天法、または胸腺細胞などをフィーダー細胞にした限界希釈法)などにおいて一部改変されてきてはいる。しかし抗体産生能のある脾臓のB細胞と無限の増殖能を持ったミエローマ細胞が融合したものを使うという基本的な点では変わっていない。

 この夢のような抗体は(イ)化学的、生物学的に単一の性質を示す一つの抗原決定基に対する抗体が得られる(ロ)同一の立体構造をもつ抗体を半永久的に供給し得るといった性質を持っている。このため医学(特に免疫学の分野)、生物学(特に動物学)において早くから利用されてきた。事例をあげるときりがないのであるが、従来から使われていた抗血清(ポリクローナル抗体)をはるかに上回る特異性を生かした研究がなされたことは言うまでもない。

 さらに、このモノクローナル抗体の技術は、植物学の分野においてもすでに多くの場面で利用されている。特に、抗原に用いる植物タンパク質の抗原性が動物にとって高い場合(糖タンパク質など)に、数多くのモノクローナル抗体が作製されている。

 以上のように現在では、多くの分野においてモノクローナル抗体が作製され、物質の検出、精製などの多くの場面において大きく貢献してきたし、今後もその地位は変わらないであろう。そこで、本章では、前半において、作りやすく利用範囲の大きいポリクローナル抗体の作製法に関して説明し、後半で、その免疫したマウスを用いたモノクローナル抗体の作製法について説明する。

 マウスを用いて、抗体を作ることは、できる抗体量がウサギに比べて極端に少ないことから、あまり一般的ではない。しかしながら、筆者が行った実験では、植物由来の同じ坑原をマウスとウサギに免疫した場合に、マウスの法が数段高い特異性を示しているので、特異性のみを求める場合には有効かもしれない。


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